野尻町の田の神

　野尻町は宮崎県の南西部に位置し、東は綾町・宮崎市、西から北にかけて小林市、南は高原町・都城市と隣接している。（2010年3月23日に小林市に編入された。）野尻郷も安土桃山時代以降、江戸時代末期まで島津領であり、多くの田の神像がある。野尻町の田の神像は宮崎県の他の市町村と同じく（えびの市をのぞく）、神官型の田の神像が多いが、農民型や仏僧型、地蔵型、大黒天・農民混合型などもありバラエティーに富む。

　宮崎の神官型の田の神は台座に腰掛ける「腰かけ型」と台座に安座もしくは正座する「座像型」に区別できる。また、手は左右の手を軽く握り別々にものを持たせるようにした「左右持」と両手を輪組にして笏を持たせるようにした「両手輪組」に分けることができる。「腰かけ型」・「左右持」が古く「新田場の田の神」「谷川の田の神」などがそれである。

　宮崎の神官型の多くは「両手輪組」であるが、野尻町の場合は両手を組み、石で彫った笏やメシゲ？（シャモジ型の笏）を持たせたものが多い。。特に両手でメシゲを持った神官型の田の神は野尻町独自のもので昭和期に制作されたものである。野尻型ともいえる昭和の田の神も含めて野尻町の神官型の田の神は装束が三角や四角の角張った抽象的な表現になっているのが特徴である。その最も古い例が、高都神社参道にある「大王の田の神」で、享保十八年(1733)の記銘がある。

　また、「東吉村の田の神」は大黒天と農民型の混合の田の神として鹿児島県も含めて最も古いもので天保十三年(1842)の記銘を持つ。「大脇の田の神」「東新町の田の神」は農民型の田の神の秀作である。

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八所の田の神　　　小林市野尻町三ケ野山八所　　　　　　　

　三ケ野山八所（やどころ）の用水路脇に２体の田の神が並んでいる。向かって右の田の神は神官座像型の田の神で像高75㎝で、頭は後世の補作である。横に立つ「田の神様御鎮座記念の碑」によると「おっとられた」時に頭がなくなり、昭和２３年の化粧直しの時、頭が付けられたということである。田の神そのものは江戸時代の作と思われる。
　
　左の田の神は像高62㎝の農民型の田の神でシキをかぶり右手にメシゲ（シャモジ）を持つ。記念の碑による右の田の神が「おっとられて」頭をなくして帰ってきた後、横に新しく作って並べられた。顔はかわいらしく化粧されている。
　
　右の田の神の首は軽石でつくりコンクリートでくっつけたもので稚拙で、神官の威厳が感じられないが、それだけ親しみを感じられる田の神である。夫婦のように並んでいるこの２体の田の神（右が男性、左が女性？）は、毎年、田の神祭りをおこない、化粧されるということである。

アクセス
・宮崎道高原ICより国道221号線を北へ約0.2㎞。「高原町二本松」を右折し県道２９号線を北東へ6.5㎞。野尻町西猿瀬付近で左折0.4km。北へ2.2㎞。野尻町釘松入口で左折。国道２６８号線を西へ１㎞。野尻自動車学校前を右折。西北西へ1.4㎞。
・　「宮崎空港」より「小林駅」行きバス乗車。「瀬戸之口」下車（宮崎空港から約９０分）。またはＪＲ吉都線「小林」駅より「宮崎空港」行きバス乗車。「瀬戸之口」下車（「小林駅」から約14分）。「瀬戸之口」から北へ1.2㎞。

西原の田の神　　　小林市野尻町三ケ野山西原　　　

　三ケ野山西原の菅原神社の社殿の前に仁王のように２体の石像が対座するように祀られている。「野尻町の文化財」では石造仏像と表現しているが、神官像または武神像と思われる。手元が摩滅しているため詳しいことはわからない。両像とも像高63㎝で、左の像は丸顔で力士のような武神像である。

　苔むしていて確認することができなかったが「作者　毛利雅楽　川野楮岐作之　延享二(1745)甲丑七月廿八日　」と右の像の背中に記銘があるという。（青山幹雄「宮崎の田の神像」）鹿児島県伊佐郡菱刈町徳辺の神官型田の神に「日州、雅楽」と記銘があり、同じ作者と思われる。（「野尻町の文化財」には小林市孝之子の田の神も毛利雅楽作の享保年間の田の神像があると記しているが、実物や文献で確認していない。）青山幹雄氏は、「宮崎の田の神像」の中で、これらの像は「田の神が神官型になる原型ではないかと思われるふしがある」と記している。

　菅原神社の参道入り口には木の祠に祀られた、神官型田の神は両手を輪組みし束帯姿で台座に安座している。装束は胸の付近は丸みを帯びているが袖や肩などは三角や四角の角張った表現になっている。赤と白で見事に彩色されていて、毎年3月15日田神祭りで化粧直しされるという。像高は56㎝。野尻型ともいえる角張った装束表現であるが石で彫った笏やメシゲを持たないことや、胸の丸みを帯びた表現などから江戸時代の制作と思われる。

アクセス
・宮崎道高原ICより国道221号線を北へ約0.2㎞。「高原町二本松」を右折し県道２９号線を北東へ6.5㎞。野尻町西猿瀬付近で左折0.4km。北へ2.2㎞。野尻町釘松入口で左折。国道２６８号線を西へ１.9㎞。「川路」バス停付近で左折。南東へ0.2㎞。
・　「宮崎空港」より「小林駅」行きバス乗車。「川路」下車。またはＪＲ吉都線「小林」駅より「宮崎空港」行きバス乗車。「川路」下車。「川路」から南東へ0.2㎞。

佐土瀬・野々崎・大沢津の田の神　
　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　小林市野尻町三ケ野山佐土瀬・野々崎・大沢津　　

　国道２６８号線の釘松入口から西猿瀬へ向かう道路沿いにある、佐土瀬の田の神と野々崎の田の神は典型的な昭和期の野尻型田の神である。両像とも座像型で、三角や四角の角張った表現で、石で作ったメシゲ?（シャモジ型の笏）を持つ。ともに、赤・黒・白の三色できれいに彩色されている。佐土瀬の田の神は像の後方に「昭和１１年４月吉日」と期してある。また、野々崎の田の神は台座に７名の建立者の名が刻まれていて、記銘がないが戦後直後（昭和２０年(1945)の建立である。

　大沢津の八幡神社境内の小さな祠に祀られている大沢津の田の神も座像の神官型の田の神で、像高74㎝、両手を前で輪組をする。頭部は別のものか、セメントで接いでいる。この像の装束も写実的ではなく直線的な表現となっている。制作年代は不明である。像の前の石柱に「奉納　明治百年記念　沢口盛武」と付記してある。

アクセス
・宮崎道高原ICより国道221号線を北へ約0.2㎞。「高原町二本松」を右折し県道２９号線を北東へ6.5㎞。野尻町西猿瀬付近で左折0.4km。北へ2㎞で佐土瀬の田の神。そこより北へ100mで野々崎の田の神。（国道２６８号線野尻町釘松入口手前0.1㎞。）　
・大沢津の田の神は野々崎の田の神から北へ100m、野尻町釘松入口で右折し国道２６８号線に入り東へ100mすすみ左折し北へ500m。
・　「宮崎空港」より「小林駅」行きバス乗車。「猿瀬口」下車。またはＪＲ吉都線「小林」駅より「宮崎空港」行きバス乗車。「猿瀬口」下車。「猿瀬口」から南東0.2㎞で野々崎の田の神、そこから南0.1㎞で佐土瀬の田の神。
・大沢津の田の神は上記と同じバスで「栗須」下車。北へ500m。

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大脇の田の神　　小林市野尻町三ケ野山大脇　　　

　大脇の田の神は国道から角内へ向かう道に入ってすぐの右手道路沿いの小さな祠に祀られている。農民型の田の神で、頭にシキ、右手のメシゲ（シャモジ）を顔の高さにかかげ、左手に短い棒（すりこぎ？）を持つ。田畑で働く農民の姿そのものといった風情の田の神である。

　以前化粧がほどこされていたようで、衣裳とシキとメシゲは朱塗りである。像高は65㎝で中腰で立っている。田の神舞をしている姿を表したものと考えられる。

アクセス
・宮崎道高原ICより国道221号線を北へ約0.2㎞。「高原町二本松」を右折し県道２９号線を北東へ6.5㎞。野尻町西猿瀬付近で左折0.4km。北へ2.2㎞。野尻町釘松入口で右折。国道２６８号線を東へ１.4㎞。左折し北へ30m。
・　「宮崎空港」より「小林駅」行きバス乗車。「大脇」下車。またはＪＲ吉都線「小林」駅より「宮崎空港」行きバス乗車。「大脇」下車。

水流平・角内・相牟田の田の神　
　　
　　　　　　　　　　　　　　　小林市野尻町三ケ野山水流平・角内・相牟田　　

　大脇の田の神から0.4㎞ほど北へ進み右折して次の四叉路を左に曲がると水田横の水路に面して神官型の座像の田の神が見えてくる。水流平（つるのでら）の田の神である。頭と装束の中央部を黒く塗り、顔と手足は白塗りで、装束の袖の部分は赤く塗っている。両手でメシゲを持つ典型的な野尻型の田の神である。像の後ろに「水流平　昭和六年十一月二日」と書かれている。像高５１㎝。

　角内（つのうち）の田の神は角内の村の東にある「きよの神様」の境内にまつられている。神官型座像の田の神で像高７５㎝で両手を輪組にする。顔は摩滅のためもとの顔がわからない。肩はなで肩で衣裳は束帯（強装束）には見えない。（青山幹雄「宮崎の田の神像」では地蔵衣となっている）

　相牟田（あいむた）の田の神は集落の西のはずれの湧水の池の岸に水神と一緒に祀られている。大きなメシゲを両手で持った農民型の田の神で、赤と黒と白で丁寧に化粧がほどこされている。像高６５㎝。服装は僧衣で仏僧型との混合型である。

アクセス
・宮崎道高原ICより国道221号線を北へ約0.2㎞。「高原町二本松」を右折し県道２９号線を北東へ6.5㎞。野尻町西猿瀬付近で左折0.4km。北へ2.2㎞。野尻町釘松入口で右折。国道２６８号線を東へ１.4㎞。左折し北へ2㎞で角内。角内の集落の東端に角内の田の神。
・野尻町釘松入口から国道２６８号線を東へ１.4㎞。左折し北へ0.4㎞。右折し次の四叉路を左折すれば水流平の田の神。
・宮崎道高原ICより国道221号線を北へ約0.2㎞。「高原町二本松」を右折し県道２９号線を北東へ9.3㎞。「野尻町追分」で左折。国道２６８号線を0.5㎞。右折し北へ0.9㎞。左斜めに入り200mで相牟田の田の神。

・　「宮崎空港」より「小林駅」行きバス乗車。「大脇」下車。またはＪＲ吉都線「小林」駅より「宮崎空港」行きバス乗車。「大脇」下車。「大脇」から北東へ約800mで水流平の田の神。「大脇」から北北東へ2.2㎞で角内の田の神。
・　「宮崎空港」より「小林駅」行きバス。「小林駅」より「宮崎空港」行きバス乗車。「ゆーぱるのじり前」下車。北西へ約１㎞で相牟田の田の神。

高都万神社・東吉村の田の神　小林市野尻町東麓大王・東吉村　　　　

　東麓大王にある高都万神社は、約１３００年前の白鳳年間の創建と伝わる由緒ある神社で猿田彦命を祀り、大王権現とも称される。この高都万神社の参道階段の途中に田の神が祀られている。像高70㎝の神官型の田の神で束帯姿の座像であるが膝から下は省略されている。両手を膝の上で輪形にくんでいる。現在は両手から花いけのための筒をつるして榊が供えられている。祭りの時はシャモジがつきさされるという。「享保十八年六月　川野尾張」の記銘があり、享保十八年(1733)に高都万神社の神官、川野尾張が造立したことがわかる。角張った装束表現で野尻型、田の神の原点がここにある。

　東吉村の田の神は東麓東吉村の村の道路脇の祠に祀られている。農民型で大黒天を混合したものである。像高８６㎝の座像で、おおきな頭巾のようなものをかぶり丸顔で、耳は福耳で大きく、まさしく顔は大黒天である。両肩にメシゲ２本を持ち、両手を輪組みして宝珠を持っている。「天保十三(1842)年十二月」の記銘を持つ。大黒天は江戸時代になると豊作の神として信仰を深め、各地の農村で田の神と結びついていく。像として田の神と大黒天が融合されたのはこの田の神が最も古いと思われる。

　大黒天との混合型の田の神は都城市の上東町、高城町上星原、山田町浜之段、鹿児島県霧島市国分重久などにみられるがすべて近代の作である。

アクセス
・宮崎道高原ICより国道221号線を北へ約0.2㎞。「高原町二本松」を右折し県道２９号線を北東へ9.3㎞。「野尻町追分」で右折。国道２６８号線を東に1.4㎞。「野尻町東仲町」を左折して北東へ0.4㎞で高都万神社の田の神。「野尻町東仲町」から北東へ1㎞で東吉村の田の神。
・　「宮崎空港」より「小林駅」行きバス乗車。「野尻」下車。またはＪＲ吉都線「小林」駅より「宮崎空港」行きバス乗車。「野尻」下車。北東へ北東へ0.6㎞で高都万神社の田の神。北東へ1.2㎞で東吉村の田の神。

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西上ノ原・東新町の田の神　小林市野尻町紙屋西上ノ原・東新町　　　　

　木造で波板で囲んだ大きな倉庫のような祠に西上ノ原の田の神は馬頭観音などとともに祀られている。像高８０㎝の神官型座像の田の神で、右肩に天保８年(1837)と刻まれている。直衣姿で両手を輪組みする。装束の表現は写実的で袖口は丸みをおび装束の質感をうまく表している。顔は面長で烏帽子(巾子？）をつけている。
　野尻町の神官型田の神は角張った装束表現に特徴があるが、この像だけは異質である。しかし、隣の宮崎市高岡町にはよく見られる様式で、浦之名田平や柚木崎、面早流の田の神と相似する。

　紙屋小学校の裏の農道脇の小さな祠に祀られている東新町の田の神は農民型の田の神で、大脇の田の神とよく似ている。像高48㎝で大脇の田の神に比べれば小ぶりであるが、大脇の像と同じように野良で働く農夫といった風情である。
　シキをかぶり、右手にメシゲを下げて持ち（大脇の像はかかげている）、左手に大脇の像と同じくスリコギを持つ。着物の上半と足首は茶色（朱色？）に彩色が残る。

アクセス
・東九州道宮崎西ICより国道10号線・国道２６８号線を西へ約19.9㎞。左折し0.2㎞、次の三叉路を右折し西へ0.3㎞で西上ノ原の田の神。東九州道宮崎西ICより約19.2㎞。右折し紙屋小学校の裏に回れば東新町の田の神。
・　「宮崎空港」より「小林駅」行きバス乗車。「紙屋大橋」下車、紙屋小学校裏に東新町の田の神。「黒谷口」で下車し東へ0.5㎞で西上ノ原の田の神。

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都城市の田の神１	高原町の田の神	えびの市の田の神１
都城市の田の神２	小林市の田の神	えびの市の田の神２
三股町の田の神	宮崎市の田の神