奈良県の天理市柳本付近には長岳寺を中心として鎌倉時代から南北朝時代にかけての石仏が多くあり、石仏愛好家にとっては魅力的な所である。
古墳の石材を転用した石棺仏や僧善教という石工の作品群など特異な石仏の宝庫である。
特に、長岳寺の弥勒石棺仏は鎌倉中期の作風を示し、おおらかな雄大な表現の石仏でこの地方を代表する石仏である。また、竜王山中腹の長岳寺の奥の院には、大和地方の不動明王の傑作である鎌倉末期の不動石仏がある。
柳本の町や長岳寺周辺には鎌倉後期の建治年間(1275〜1278)の銘が刻まれた小石仏がいくつかあり、同じ作者の作と思われる。銘がないが同じ作風の石仏とあわせると30体を越える。このうち、5体ほどが石棺仏である。面長で、細身で、技巧的な個性の強い作品群である。
長岳寺の北東に「みろく丘」と呼ぶところがあり、そこに南北朝時代の弥勒石龕仏がある。目が細く、低い鼻で、個性的な表情の石仏で、印象に残る。「永和4年(1378)」の紀年とともに「大工僧善教」の銘があり、南北朝時代後期に善教という人が作ったことがわかる。この弥勒仏と同じ作風の石仏もこの付近には多くあり、建治型石仏とともに、この地方の石仏の特色となっている。 |