大和の地蔵石仏(2)  奈良市2・大和郡山市

 奈良市の南部、菩提山川沿いにある正歴寺は紅葉の名所で、日本清酒発祥の地として知られる寺である。菩提山川沿いの参道の途中の大杉の下に2体の等身大の地蔵石仏が立っている。向かって左の像は船型光背を負った地蔵で享禄4(1531)の刻銘があり、室町後期の作である。右の像は頭光背を共石でつくった丸彫り像で、室町後期からから江戸初期の作と思われる。正歴寺の南の南椿尾には地蔵岩と呼ばれる多数の地蔵や阿弥陀、宝塔、梵字仏を刻んだ岩がある。ほとんどが江戸時代の作であるが、一番大きな像高97pの地蔵像は作風も比較的よく室町時代後期の作と思われる。

 街道沿いの辻にはよく地蔵石仏が祀られている。奈良市の西部にある尼が辻地蔵石仏や二条の辻地蔵石仏はそのよう地蔵の最も古い例である。中でも尼が辻地蔵石仏は鎌倉中期の文永2(1265)年の作で、右手を下げて与願印を示す古式像で、大和を代表する地蔵石仏のひとつである。二条の辻地蔵石仏は船型光背を負った厚肉彫りの像で穏やかな表情で丁寧な衣紋表現の地蔵石仏で鎌倉後期の作風を示す。青野共同墓地西入口の地蔵石仏も二条の辻地蔵とよく似た表現の鎌倉後期の地蔵石仏である。

 「矢田のお地蔵さん」で親しまれている矢田寺(矢田山・金剛山寺)は、地蔵菩薩を本尊とした寺であじさい寺としても知られていで、あじさいのシーズンには多くの参拝者で賑わう。本尊の地蔵菩薩は左手に宝珠を持ち、右手は阿弥陀の来迎印のように親指と人差し指を結んだ独特のスタイルの地蔵で、 「矢田型地蔵」と呼ばれている。境内にある地蔵石仏の多くも矢田型地蔵で、参道階段の途中に立つ見送り地蔵やあじさい園の入口付近にあるみそなめ地蔵などの地蔵石仏が知られている。あじさいの花に囲まれた地蔵石仏の姿は印象的である。