田の神さあ 薩摩(8)  指宿市

 指宿の田の神像は山川石という、風化した軽石を多く含んでいる凝灰岩に彫られている。山川石は黄色みを帯びた石で、加工しやすく指宿周辺では石垣など多くの石造物に使われている。従って、指宿の田の神像はすべて黄色みを帯びた像である。山川石は風化しやすいので顔などの細かい表情などが残っていないのが残念である。池田湖を望む棚田に立つ新永吉の田の神など南国の美しい風景にとけ込んだ指宿の田の神像は他の地域の田の神像と違った魅力がある。

 新永吉の棚田には3体の田の神像が祀られている。その内、2体はほぼ完全な姿で残っている。うち一体はシキの一部が壊れている以外、風化が少なく、表情がよく残っている。着衣から足を出して屈み、メシゲを大事そうに右手で抱えるように持った田の神で、顎の出た顔で細いやさしそうな目の田の神である。ツトを背負った田の神の眼下には棚田と池田湖が広かっている。

 大迫の田の神は開聞岳が見られる池田湖近くの美しい田園の中にたたずむ田の神で大きなメシゲとツトを背負って、両手を足の膝に置く。顔が大きくこわれているのが惜しい。道ばたの大きな木の下に立つ仮屋の田の神は大きく丸いシキをかぶり、右手にメシゲ、左手にお椀を持ち、それを重ねるように持っている僧型立像の田の神である。訪れたときは、美しい花か供えられ、像の背後には田植え前の田と美しく咲いた桜の木々が見えて美しい風景であった。

 NHK大河ドラマで有名になった篤姫ゆかりの地、今和泉にある麓上の田の神は、像高140pを越える大型の田の神で髪を垂らした様な大きなシキをかぶって、両手でメシゲを持って立っている。大きなツトを背負う。宮の田の神は揖宿神社の大きなムクノキの下に祀られている。このムクノキはお田植祭の時に田の神の依代(よりしろ)になった木である。右手にメシゲ、左手に神楽鈴を持つ珍しい像で、丸顔で愛らしい田の神である。

 木ノ下の田の神は小さなシキをかぶり、メシゲと椀を持った田の神で、裁付袴をはいている。横には市の文化財の島津斉彬公堀井碑2基がある。中福良の田の神は麓上の田の神の並ぶ大型の立像でやさしそうな瓜実顔で、長袴をはいてツトを背負った田の神である。一見すると女性の田の神にも見える。

 指宿市山川町成川には市の指定有形民俗文化財の田の神がある。明和8年(1771)に像立されたもので、裁付袴をはき、右手にメシゲ、左手に小さなだんごのような物を持つ。痛みがひどいが安定感のあるしっかりとした造形の田の神像である。この像の左には顔も体型も丸いメシゲと椀を持つ明治時代に作られた田の神像がある。