田の神さあ 薩摩(4) 薩摩川内市

  薩摩川内市の楠元の田の神は、方柱状の石に舟形の深い窪みを彫り、その中に帽子状のものをかぶり、小槌とメシゲを持って俵の上に立つ田の神を半肉彫りしたものである。写真で見るより大きな田の神で、像高は俵も含めて120pもある。胸元は肋骨状の物が彫ってあり、鎧を着ているように見える。大黒天の影響だけでなく、本庵の田の神のような武人像の田の神の影響も受けていることがわかる。中村神社の田の神も俵の上に乗り小槌とメシゲをもった大黒天との混合型の田の神である。大黒天は音韻や容姿の類似から大国主命と重ねて受け入れられるとともに、農村では豊作の神として信仰を深めていく、そのため田の神信仰は西日本では大黒天と結びついていった。薩摩川内市城上町上塚の交差点近くには周辺にあった田の神が多数集められている。そのうちの一つの小川路の田の神1は小槌を持ち袋を担いだ大黒天像そのものを田の神としたものである。小川路の田の神2はメシゲとスリコギを持つ田の神で像高34pの小型の田の神である。像高23pの小川路の田の神1とともに元は持ち回りの田の神像であった。

 旧川内市から旧串木野市にかけて道祖神のように男女二神を並立して浮き彫りにした男女並立型浮き彫り像の田の神像が多くある。城上町上塚の交差点付近にある春花田の田の神は高さ1m近い自然石に彫り窪みをつくり、そこにメシゲと握り飯、スリコギと握り飯を持った2体の像を並立して浮き彫りしたもので、シキを笠状と円形光背状に組み合わせた独特の表現となっている。薩摩川内市陽成町の一条殿の田の神はその中でも秀作で絵馬のように先を三角形にした五角形の石材に窪みをつくり、その中に右に裃・袴でスリコギを持つ男神とシキをかぶりメシゲを持つ女神を浮き彫りしたものである。陽成町の中麦の田の神一条殿の田の神とそっくりな男女二神並立の田の神像である。陽成町の宮田橋の田の神も石材は四角形であるが、一条殿の田の神とほぼよく似た表現の男女並立型浮き彫り像である。共に天保12年(1841)の刻銘を持つ。柿田橋付近にある2体の田の神は一体は一石双対浮き彫り像で一条殿の田の神と比べると小型で、像上部に日と月が彫られている。左の像は杵(スリコギ?)と飯椀を持つ農民型の田の神である。

 薩摩川内市付近には女人型の田の神がよく見られる、これは男女並立型浮き彫り像の田の神像から分離独立したものではないかと言われている。そのような女人型の田の神の一つが陽成町の春花橋付近の田の神である。丸髷を結ったかわいらしい田の神像である。