薩摩の田の神さあ(1) さつま町・薩摩川内市入来町

 さつま町の山崎麓の田の神は着衣は上級公卿の日常着の直衣で、衣冠束帯の神官型立像の田の神が、シキをかぶりメシゲを持ち田の神舞を踊る神官の田の神に変化していった典型的な例である。着衣の袖や裾など膨らみのある写実的な曲線で端正な顔と共に柔和な表現となっている。鹿児島の田の神を代表する像の一つである。

 大角の田の神は自然石の前面を平らにして、舟形に彫り窪めて半肉彫りした農作業姿の田の神であるが、髷を結い、その頭部に櫛をさした、女人像の田の神である。下狩宿の田の神は女人像の田の神像の中でも特に美しい田の神である。髷を結い長い袖での着物で袴をはき、手鏡のような小さなメシゲを持ってすらっと立つ姿は気品がある。柊野下の田の神は下狩宿の田の神似よく似た女人像の田の神であるが、4頭身で庶民的な姿の田の神像である。

 時吉の田の神は左手に大きなメシゲを持ち、矛のようなものを右手に持つた田の神像で、大きな舟形の石に薄肉彫りしたものである。シキを被らず、角髪(みずら)のような髪型をしていて、古事記などに登場する神か、仙人を思わせる珍しい田の神像である。上狩宿の田の神はしわ寄せた顔がユニークな丸坊主の僧風の田の神で、被るシキを宝珠光背のように線彫りで表現している。別野の田の神内小川田の田の神は共に個性的な顔をした田の神である。別野の田の神はあごが大きく面長で垂れ目の顔に特徴のある田の神、内小川田の田の神は大きな耳の頬を彩色したふくよかな顔の田の神である。

 吉川の田の神は大きな笠のようなシキを被ったきれいな彩色が施された小さな田の神で3段の立派な基壇にのっている。広瀬の田の神は2体の田の神が並んでいて、向かって左の田の神は狩衣姿の立像の田の神・右の田の神は舟型の光背を背負った僧風の座像の田の神である。中組の田の神はかがみ込むようにして、田の神舞を踊る田の神舞型の田の神である。両手首は破損しているがメシゲと椀を持っていたと思われる。