田の神さあ() 伊佐市菱刈・姶良市

  伊佐市菱刈地区には個性的な田の神が多くある。本城南方神社の田の神は神官型の田の神であるが他の神官型の田の神のような衣冠束帯姿ではなく裃姿の田の神である。下手仁王の田の神も同じく神官型であるが膝の上に両手を少し離しておき、右手の上に白いおにぎりのような物をのせ、左手は軽く握っていて、指の間にものを差し込むように穴があいている。荒田の田の神は大黒天のような大きな耳とふくよかな顔を持つ田の神である。湯之尾前田の田の神はへらのような小さなメシゲとソフトクリームのようなにぎりめし?(飯椀)を持ち、シキの下に頭巾のようなものを被った小さな顔のユニークな田の神像である。

 姶良市蒲生町の中福良の田の神は入来町によく見られる、自然石や四角の石材に舟形や四角形の彫りくぼみを作り、右手にメシゲ、左手に閉じた扇子を持ち裁付袴の着た田の神を浮き彫りする石碑型の田の神像である。安永9年(1780)の作。白男上の田の神はたすき掛けで、右手にメシゲをかかげ左手に飯椀を持って田の神舞を踊る姿を表した像である。

 畠田の田の神はキノコ状に広がった笠(シキ)をかぶり、右手にメシゲを左手に宝珠を持った像で、切れ長の鋭い目で、頭から肩にかけて長い総髪がなびかせている。山で修行をする山伏を思わせる魅力ある像である。元文4(1739)年の作。漆の田の神は県指定の民俗文化財でメシゲを両手で捧げた田の神舞型の像である。享保3年(1718)の紀年銘を持ち、田の舞型の田の神としては最も古い。石の持つ量感を活かした重厚感のある田の神像である。 

 自然石の前面を平らにし、舟形などに彫り窪みを作り、浮き彫りや半肉彫りにした田の神像は薩摩地方北部によく見られる。その中でも県の民俗文化財に指定されているのが下久徳の田の神である。シキを被り、袂のない上衣に裁付袴を着た農作業姿の田の神である。顔がつぶれているのが惜しい。明和五年(1768)の作。

 姶良市平松の山之口の田の神は長い顔で鈴とメシゲを持つ田の舞型の田の神で安永4年(1775)の紀年銘がある。福岡家の田の神は、シキをかぶり、タスキ掛けで、一歩踏み出して、両手でメシゲを持ち、空を見上げるように田の神舞を踊る田の神像である。黒葛野(すずらの)の田の神は畑の上の丘に下の田畑を見守るように祀られている。シキをかぶり、メシゲと椀を持って腰をかがめて田の神舞を踊る姿を丸彫りで表したもので、触田や西田の田の神に比べると写実的な表現となっている。寺師の田の神は大きなメシゲを両手で抱えた田の神で、安政5年(1858)の作である。